<目次>

事業承継と知的財産
今後の資格継続セミナーのご案内
『交流会40minutes』のご案内

事業承継と知的財産

知的財産は、企業の経営ツールの1つであるものの、これまで事業承継においてあまり注目されていなかった。その理由の1つに、知的財産は特許庁で登録されることによって、知的財産権として成立し、そこには、知的財産関連法が複雑に絡むために容易に理解することが困難だったからである。とはいうものの、事業承継を専門とする経営コンサルタントにおいても知的財産に関して一定の知識が必要であることには疑いは無い。今回、「ツナグ」紙面上に、知的財産に関して執筆できる機会をいただいたので、皆様に知的財産に関する理解を少しでも深めていただければ幸甚である。

中小企業白書2022年版の第2章「企業の成長を促す経営力と組織」では、中小企業が付加価値を向上しながら成長するための方法として、ブランドや人材の質への投資が付加価値の向上を促すとして報告されている。また、特許庁の「⾏政年次報告書2021年版」では、中小企業の商標登録出願の割合が出願全体の約60%を占めていることが報告されている。これら報告は、中小企業において商標権の重要性が認識されているからである。

1.弁理士業務の紹介
弁理士は、国家試験である弁理士試験に合格した後に、実務修習を経なければ登録できない。2023年2月末現在、日本弁理士会に登録されている弁理士は、11,717人である。弁理士は、「知的財産に関する専門家」として、弁理士法第1条に「知的財産権の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とする」と規定されている。
そして、弁理士は、税理士や社会保険労務士と同様に独占業務があり、特許庁への特許出願や商標登録出願等の手続代理と手続に関する鑑定等の事務を独占業務としている。その一方、利益相反(コンフリクト)は、厳しく禁じられており、受任している顧客企業と競争関係にある企業からの依頼は、原則受任できない。

2.知的財産の特徴
知的財産は、経済産業省が推奨している知的資産経営と関連する。知的資産とは、貸借対照表で計上されている現金や設備と異なり、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産のことで、企業の競争力の源泉となっている。知的財産は、知的資産の一部を構成し、特に権利化された知的財産権は、法的に保護され排他的な物権的性質を有している。だから、知的財産権として成立すると、不動産と同様に権利を他人に貸し出すことが可能である。近年、競争力のある企業経営は、知的資産を活用した知的資産経営が行われている。
知的財産の特徴は、模倣が容易であること、大規模化が容易であること、転用が容易であることの3点が挙げられる。ブランドを構成する商標を例に取ると、コピーした商標を付すことで偽ブランド品を製造できるし、生産品に商標を付せば生産数量の大規模化が容易に実現できるし、ブランドエクステンションとして、ブランドの転用も容易となる。従って、特許法や商標法は、模倣による盗用を防ぐために差止請求権(他人の使用を停止する権利)や損害賠償請求権を規定している。加えて、共有の特許権や商標権の場合、資本力によって一方の共有者が不利にならないように、権利譲渡や実施許諾(商標権では使用許諾)の際に共有者全員の同意が必要となっている。

3.権利の取得と消滅
特許権も商標権も特許庁に願書が提出され、それぞれ一定の要件について特許庁で審査され、審査を通過した出願のみに権利が付与される。特許権の審査は、主に新規性、進歩性の有無であり、商標権の審査は、主に商標として機能を発揮できるか、他人の商標と混同を生じないかという点である。
特許権と商標権の大きな違いは、権利期間の違いである。特許権は、特許出願の日から20年間で消滅する(一部例外がある)。一方、商標権は、商標権の登録の日から10年で終了するが、更新登録の申請を行うことで半永久的に権利が存続する。他方、特許権も商標権も権利放棄により、または特許権においては毎年発生する特許年金の未払いや商標権における分納登録料の未払いにより権利が消滅する。
その他に、特許庁の審査ミスによって誤登録される場合もあり、特許権や商標権の誤登録を是正する無効審判や異議申立によっても権利が消滅する。更に、商標権においては、3年間継続して使用していない場合や、故意に他人の商標に似せて使用(不正使用)した場合にも、請求によりその商標権を消滅させることができる。このように、特許権や商標権は、排他的な物権的性質を有するものの、権利自体が消滅する特徴を有している。

4.事業承継と関連して
特許権や商標権が事業承継で問題となる場合は、敷地や建物等の不動産の名義が社長の名義となっている場合と同じである。つまり、特許権や商標権が被相続人名義となっている場合、相続発生時には、相続人の共有名義になる。その場合、不動産と大きく違う点は、相続人の一人の持分が50%以上であっても他の共有者の同意が無い場合、その一人の一存で事業会社に特許権や商標権を貸すことができない点である。ただ、特許権や商標権は、不動産と異なり目に見えない資産であるため、これまで事業承継の場面で問題となることはほとんど無かったが、潜在的な問題として今後対応が必要となる。
共同名義の特許権や商標権においては、事業の一部譲渡で使用している共有の特許権や商標権を事業と共に譲渡する場合、共同名義人の同意が必要になる。事業の譲渡先の企業が共同名義人と競争関係にある場合、同意が得られない可能性がある。事業に必須の特許権や商標権だとすると、譲渡先企業で事業を実施できなくなることもある。従って、事業を譲渡する際には、特許権や商標権の名義の確認を怠ることのないように注意したい。

また、大企業から特許権を借りて事業を行う中小企業であって、M&A等で企業の支配権が変わる場合、特許権の実施許諾契約が終了することがある。特許権の実施許諾の契約実務では、特許権を貸し出した企業が自社の競業企業に買収され、自社の特許権が競業企業において実施されてしまうことを阻止するために、契約終了の条件に支配権の変動を契約書に記載することが多い。ですので、企業を買収する前に、事前の契約書の確認や、ヒアリングで他社から特許権や商標権の借入の有無を確認すべきである。

最後に、皆様の支援企業は、商標権を取得していますか。支援企業のブランドを知らない間に善意の第三者に取られることもあり、要注意である。

【執筆者紹介】

櫻田 賢 氏(さくらだ まさる)
櫻田特許商標事務所 代表 (事業承継士、弁理士、中小企業診断士)
食品製造会社で20年間特許と商標の実務に従事し、権利取得、侵害事件の交渉、知財訴訟を経験。現在、知財経営のスペシャリストとして中小企業に寄り添った知財経営の支援を実施。「食品分野と競合する領域における知財戦略に関する考察」他、論文多数。
 
 
 
当記事は、2023年3月28日に資格継続セミナーで講演した内容を要約して掲載しております。
当日の講義を視聴希望する方は下記よりお申し込みください。
https://www.shoukei.or.jp/onlineseminar#KOUZA
今後も資格継続セミナーを下記の通り開催致しますので、ぜひご参加ください。

今後の資格継続セミナーのご案内

資格継続セミナーは、事業承継支援者向けのスキルアップセミナーです。

※画像をクリックすると申込ページに移動します。

【2023年6月】

開催日 :2023年6月27日(火)18時30分~20時30分
講師  :辻 保司 氏(事業承継士・行政書士・社会福祉士・公認内部監査人・医業経営コンサルタント・日商簿記1級・プライバシマーク審査員補・ISMS審査員補・ISMSクラウドセキュリティ審査員)
テーマ :事業承継における行政書士の活用 ~許認可事業・法人に注意!~
内容  :行政書士は、官公署に提出する書類作成、事前相談、手続代理を業とする。ほとんどが許認可等に関するもので行政書士の独占業務となる法律に定めがあるものを除く)。その数は1万種類を超えるとも言われ、許認可が絡む事業承継は、行政書士抜きでは語れない。東京都福祉保健局医療政策部に在籍し、医療法人指導専門員として活動していた行政書士が、特に難易度の高い医業承継を例として、許認可について解説!
参加費 :2,000円(税込)
     事業承継士または事業承継プランナー以外は4,000円(税込)
詳細  :https://www.jigyousyoukei.co.jp/2022/12/23741/


【2023年7月】

開催日 :2023年7月25日(火)18時30分~20時30分
講師  :古賀 雄子 氏(事業承継士・税理士・中小企業診断士)
テーマ :事業承継支援では知らないでは済まされない税務の知識 税制改正の内容ともたらす影響を総ざらい!
内容  :次世代への早期の資産移転のための導入された相続時精算課税や、贈与税は、事業承継にも大きく関わっています。このからの税制が令和5年度に改正になりました。また、事業承継税制も特例承継計画書の提出期限が令和6年3月31日と迫っています。今回は、税制改正内容や事業承継税制など、改めて事業承継への影響をみていきましょう!
参加費 :2,000円(税込)
     事業承継士または事業承継プランナー以外は4,000円(税込)
詳細  :https://www.jigyousyoukei.co.jp/2023/05/24262/

『交流会40minutes』のご案内

『交流会40minutes』は、事業承継協会会員向けに、毎月11日19時からZOOMで開催している無料の交流会です。
事業承継協会会員のみ参加できます。

第25回『交流会40minutes』(開催日時:2023年6月11日(日)午後7時~7時40分)

【開催概要】
「『事業承継One,Two,Three』他 大阪セミナーイベント多数開催のご案内」
内藤 博 氏(一般社団法人事業承継協会 代表理事)
②<告知>「事業承継における行政書士の活用~許認可事業・法人に注意!~」
辻 保司 氏(辻経営行政書士事務所 代表)

詳しくは、下記URLをご覧ください。

https://www.shoukei.or.jp/archives/info/1577