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スムーズな事業承継に向けた「経営者保証改革プログラム」活用術
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スムーズな事業承継に向けた「経営者保証改革プログラム」活用術

私が受ける事業承継の課題で「経営者保証」に関することが多い。もともと、金融機関出身であることから、融資のこと、そして付随する経営者保証が事業承継のネックになっているという相談をいただく。

まず、なぜ金融機関は、中小企業に対して経営者保証を求めるか説明した。経営者保証は、戦後の高度経済成長期に広がったもので、融資を受けた場合、万が一経営に行き詰まり返済が滞ると、社長個人が会社に代わって返済することである。金融機関側の利点としては、会社に対してお金を貸しやすくなる、つまり、個人保証があることで、事業に万一のことがあっても融資下にあるお金が返済されやすい信用補完の観点だ。中小企業庁も、「経営者保証」には、経営への規律付けや資金調達の円滑化に寄与する面があると認め、一方では経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる要因となっているという指摘をしている。

そのため、2014年に日本商工会議所と全国銀行協会が中心となり、「経営者保証ガイドライン」を制定した。一定の条件を満たす場合に、融資先に対して経営者保証を求めないことや、経営者保証によって経営者の生活が破綻しないように、生活費などの財産を残すことが定められている。下記のように、2014年以降、経営者保証に依存しない新規融資の割合は増加してきているものの、民間金融機関では約3割に留まる。

事業承継の2025年問題というものがある。ご承知のように我が国の企業数は減少の一途である。そして2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、企業減少に拍車がかかる可能性があるのだ。そのような背景もあり、企業の活性化を図る見地から、経済産業省・金融庁・財務省合同で、2022年12月に「経営者保証改革プログラム」が策定された。改革の意味として、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を更に加速させることだ。裏を返すと、当局の意図ほど金融機関の動きが良くないため、監督を強化する。実際に、2023年5月の日経新聞には、「経営者保証を求めません、地銀、相次ぐ融資慣行見直し」の記事が載った。

では、実際にどのような条件ならば、経営者保証が不要になるか以下の図で説明する(出典:中小企業庁)

実務上は、代表者への貸し付けなど法人・個人が混同することを避ける、黒字・自己資本プラスの財務、定期的な試算表提出といったことが当てはまる。ただし、個々の金融機関で判断基準が違うので、融資担当者に十分に確認して記録しておくことが大事だ。金融機関によっては、3要件の内容についてより具体的に公表して、パンフレットとして活用しているところがある。つまり、そのような金融機関ならば、経営者保証を取らない、そして、事業承継時には外すということに前向きと捉えられる。また、今回の制度により、金融機関は融資時に経営者保証の受け入れ有無の説明をきちんとして記録することがルール化された。つまり、保証を受け入れるとしても「なぜ必要か」「どのような状態になれば経営者保証不要になるのか」説明するのだ。企業側も、金融機関からの説明について記録しておくことが、次の融資条件につながる。そして、今後、金融機関や信用保証協会は経営者保証の代替になる手段について前向きに取り組むことが求められている。事業内容を評価して融資することや、無形資産を担保とすること、信用保証料の上乗せなどである。このような動きは緒についたばかりであるので今後の動向を注視したい。

最後に、事業承継士として今回の制度をどのように活用するかを説明した。オーナー企業だとバランスシートで法人・個人がきちんと分離していないことが多い。また、コロナ禍で、財務が傷んだ企業も多いだろう。今後、事業承継支援を展望していく中で、経営者保証をできるだけ差し入れない、外していくには、事業承継計画の中で、上記3要件に合うように「事業の磨き上げ」をしていくことが大事である。

【執筆者紹介】

事業承継士 川居 宗則 氏 氏(かわい むねのり)
大手金融機関にて、融資担当、 新規取引開拓担当として従事。携わった貸出案件は、1万社以上。 2支店の支店長を歴任し、事業のバトンタッチ、相続準備などに多く携わる。退職後は資金調達や事業承継の悩みを解消する経営コンサルタントとして活動中。

当記事は、2023年9月26日に資格継続セミナーで講演した内容を要約して掲載しております。
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