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事業承継時に使えるオペレーティングリースの活用法
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事業承継時に使えるオペレーティングリースの活用法

事業承継の現場において、後継者への株式移転や相続・贈与対策は避けて通れない重要なテーマである。特に中小企業では、業績が好調であるがゆえに自社株評価が高額となり、円滑な承継の障害となるケースも少なくない。こうした局面で、検討に値する選択肢の一つがオペレーティングリースの活用である。
 

 
オペレーティングリースとは、航空機や船舶といった高額資産を対象に、匿名組合を通じて投資を行う仕組みである。投資家である法人は匿名組合に出資し、リース期間中は多額の減価償却費等により損失が先行して計上される。一方、リース満了時には資産売却益等が計上され、最終的には利益が発生する。初期に損金が先行し、後年に利益が戻る構造となっており、いわゆる「課税の繰延効果」が特徴とされている。税務上、匿名組合から分配される損失のうち損金算入できる額は出資額を上限とする制限があるものの、初年度で70%、場合によっては90%超の課税繰延が可能な商品も存在する。生命保険では対応が難しい大型の一時的利益に対して、有効な選択肢となり得る点が評価されてきた。
 
オペレーティングリースは40年以上前から活用されている制度であり、その点では制度的な実績がある。また、出資額が最低一千万円からとなるため、活用可能な中小企業も決して少なくないと考えられる。
 
私自身、長年経営してきた事業をM&Aにより事業譲渡した経験がある。事業譲渡は株式譲渡と異なり、譲渡対価が会社に入金されるため、譲渡益に対する法人税負担が一時的に大きくなる。この譲渡益について、オペレーティングリースを活用することで、課税の繰延を図ることができた。
 
事業承継との関係で特に注目すべき点は、自社株評価への影響である。オペレーティングリースに出資した事業年度は、多額の損失計上により純資産が減少し、その結果として株価の引き下げにつながる可能性がある。そのタイミングで後継者に株式を移転することで、承継コストの抑制が期待できる。さらに、リース終了時に計上される利益については、役員退職慰労金の支給と組み合わせるなど、中期的な財務計画の中で調整することも考えられる。
 
もっとも、オペレーティングリースは万能な手法ではない。個人での出資には節税効果がなく、原則として中途解約ができないため、十分な余裕資金が前提となる。また、出資時は円建てである一方、リース満了時の分配はドル建てとなるため、為替リスクも無視できない。この点については、ドル口座で受領したうえで為替動向を見極めながら円転するなど、一定の対応策を講じることは可能である。また、船舶をリースする海運会社の信用リスクも存在するが、実務上は世界有数の海運会社が賃借人となっているケースが多く、リスク水準は相対的に限定的と考えられる。ただし、制度の仕組みやリスクを十分に理解しないまま導入することは、かえって経営の不安定要因となり得る。
 
事業承継士として重要なのは、オペレーティングリースを単なる「節税商品」として捉えるのではなく、生命保険等の他の手法との補完関係の中で位置づける視点である。事業承継は長期的かつ多面的な取り組みであり、単一の手法ですべてを解決できるものではない。だからこそ、制度のメリット・デメリットを丁寧に説明し、クライアントの状況に応じた選択肢を提示する姿勢が求められる。
 
オペレーティングリースは、正しく活用すれば事業承継時の株価対策や財務戦略に有効なツールとなる。一方で、理解不足のまま安易に勧めるべきものでもない。事業承継士一人ひとりが制度への理解を深め、責任ある助言を行うことが、結果としてクライアントからの信頼獲得と提案力の向上につながるものと考える。

【執筆者紹介】

真宗 宏至 氏(まむね ひろゆき)
株式会社ヘクセンハウス/真宗宏至税理士事務所
(事業承継士・税理士/認定M&A支援機関)

【経歴・実績等】
30年にわたり製造業を経営した後、M&Aで事業譲渡。事業譲渡益の繰延べに「オペレーティングリース」活用した実体験を持つ。経営者としての視点と税理士・事業承継士としての専門知識をあわせ持ち、経営者の思いに寄り添いながら、最適な選択肢を提示し、円滑なM&Aや事業承継の実現に向けた伴走型支援を行っている。
 
当記事は、2025年10月28日に資格継続セミナーで講演した内容を要約して掲載しております。
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【2025年12月】

開催日 :2025年12月23日(火)18時30分~20時30分
講師  :雨宮 英希 氏
テーマ :事業承継における 税務の基礎知識・承継手法の解説
内容  :事業承継について、経営者にアドバイスするためには、事業承継に関する税務の基礎知識(例えば、暦年贈与、相続時精算課税制度、納税猶予制度等)が最低限必要になります。また、税理士である講師の過去の経験を踏まえた自社株式の承継手法や注意事項等についても解説いたします。
参加費 :2,000円(税込)
事業承継士または事業承継プランナー以外は4,000円(税込)
詳細  :https://www.jigyousyoukei.co.jp/2025/09/53828/


【2026年1月】

開催日 :2026年1月25日(火)18時30分~20時30分
講師  :長戸 美樹 氏
テーマ :生成AIを自分で使う、誰かに教える! ~使うシーンや相手によって使い分け~
内容  :めざましい進化を遂げている「生成AI」。このような時代に、最新情報はどうやってキャッチアップする?有料版AIを利用するかの判断は?支援機関や事業者様に使い方をお教えするには?等、様々なシーンでの生成AIの使い分けについて「考え方の基準」を含めてお話します。AIツール説明ではなく、ITコーディネータによる「DX推進の視点」でのセミナーです。
参加費 :2,000円(税込)
事業承継士または事業承継プランナー以外は4,000円(税込)
詳細  :https://www.jigyousyoukei.co.jp/2025/09/54151/


【2026年2月】

開催日 :2026年2月24日(火)18時30分~20時30分
講師  :佐伯 悠 氏
テーマ :後継者が直面する“見えない抵抗” ー離職を防ぐリテンションー
内容  :後継者が事業を引き継ぐ際、大きなリスクとなるのが、社員との意識ギャップから生じる“見えない抵抗”である。評価基準の曖昧さや役割期待の不一致は、モチベーション低下・生産性停滞、更には離職へと発展しうる重大課題となる。こうした人の問題は属人的で繊細であり、慎重な対応が求められる。大手企業での人事経験や中小企業における定着支援に携わってきた実務家が、承継初期に起こりやすい人材リスクを整理し、評価基準の再設計とフィードバックによるリテンション構築の実践アプローチを紹介する。
参加費 :2,000円(税込)
事業承継士または事業承継プランナー以外は4,000円(税込)
詳細  :https://www.jigyousyoukei.co.jp/2025/12/54222/